へびにも性別があった
2004/7/4


ぼくはパイソンの学術的な分類は調べたことがないからわからないいけれど、ぼくたち皮革業界では大蛇のことをパイソンと総称します。どのくらい大蛇かというと、皮革で見ると頭と尻尾を落とした状態で3m以上、太さは一番太いところで幅で30cm以上あるから、太さにしたら10cmくらいははあるんでしょうね。マレーシアに棲むと言うけれど、ぼくはあまり詳しくは知らない。いずれにしろ生前にはあまり会いたくない相手だから、どこに棲んでいようと、ぼくは会いに行く訳じゃないからね。

模様が蛇らしくてとてもきれいな菱形になっている蛇はダイアモンドパイソンと呼ばれ、模様は恐ろしいけれど、太くて皮革製品にするのに効率のいいヘビはモラレスと呼ばれています。モラレスは模様が人気がないので、「フ抜き」といって脱色して模様を消してから、染色するので問題はないけれど、ダイアモンドパイソンは模様を生かすために、そのままの状態で薄く染色して、持ち味の模様を生かすように染色します。アイソラはモラレスも使ってるけれど、この模様の付いたダイアモンドパイソンを、マット仕上げといって艶を消していかにも蛇らしい革に加工した皮革を主に使っています。そしてマレーシアで捕獲されたパイソンをなめして原皮にしてからイタリアに送り、イタリア北西部のトスカーナ地方にあるは虫類専門のペレッツェリアで染色してアイソラに送ってもらうという、世界を股にかけた大蛇の革がアイソラのヘビ革です。だから色といい、触感といい、艶の出具合といい、ぼくは最高だと思っているんだけれどな。

でもこのヘビは薄く染色しただけなので、色がどうも安定しないのです。とくにナチュラルとイエローが濃くなったり薄くなったり、いつも小売店のバイヤーからクレームが付きます。たしかにバイヤーたちの言うとおり、濃くなると売りにくいのはわかるのだけれど、ナチュラルな染色だからしようがないじゃないか、って言ってもなかなか納得してもらえないしね。

ヘビの革を作ってくれているイタリアの会社のエミリオがアイソラに遊びに来たので、文句をいいました。「ぼくはナチュラルもイエローも薄い色が好きなので、もう少し気を使って薄い色で安定させてよ」。ぼくだっていつも相手の言いなりになっているわけじゃないですからね。

そうしたらエミリオが答えました。「へびだって雄と雌がいるんだからしようがないでしょ」。ぼくは目が点です。「孔雀だってなんだって、みんな動物は雄のほうがきれいなんだ。ヘビだって雄のほうが色がきついので、どうしてもナチュラルな染色だと濃くなってしまうのですよ」。そうか、そういうことだったんだ。

ぼくはそれまでヘビに雄と雌がいるなんて、考えたことも無かった。でも当たり前ですね。繁殖しているんだから。そしてヘビの雄も雌の気を引くためにお化粧しているんだ。そして半々の確率で雄と雌の革が入ってくる以上、色が安定しないのは当たり前のことだったんだ。まさかアイソラは雌のヘビだけにしてよ、なんて注文を付けることなんてできないしな。

「雄の革はなるべく濃い色に染色しているんだけれども、どうしても薄い色に染めてしまうこともあるんだ。イタリアに帰ったら気をつけるように工場で話しておくよ」ということで帰ったいったので、これからはもう少しは安定するとは思うけれど、そうなんだ、模様が濃い色のヘビは雄だったんだ。勉強になった1日でした。



ナチュラルカラーもどうしても色がぶれてしまいます。左が雄で右が雌だな

もともとこのイエローは、ナチュラルカラーを使い込んで焼けたときの色なんです。変化を先取りするってなかなかオシャレでしょ。これも左が雄で右が雌だ。

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