失われていく技術

昭和48年ごろのサイフです
 最近、日本の小企業で保たれてきた高い技術レベルがこの不況でどんどん喪失しているといわれ、よく大森あたりの町工場の風景がTVで見られます。財布の世界でも同じことがおきています。

この口金の写真は「押し口」といって、むかしからの定番です。30年くらい前までは、まだカードといったものがなく、男でも女でも「がま口」といわれた口金のついた大きな小銭入れのような型を使う人がいました。「がま口」の口金は「ひねり」とか「がっくり」と呼ばれるロックするための機構を表につけていますが、「押し口」はその機構を内側につけるため、ポケットのなかなどでもひっかることがなく、また口金も革で巻いてしまうのでキラキラ光らないのでけっこうおしゃれな型で、人気がありました。

おそらくはドイツあたりから渡ってきた型だと思います。ちいさな小銭入れからセカンドバッグまでいろいろな大きさで市場に出回っていました。僕も大好きな型ですが、作るのに型と特殊な道具が必要です。数年前のことですが、むかしその型をお願いしたことがある工場を訪ねました。もう一度お願いしたかったのです。「あの型、覚えています?もう一度お願いできませんか」「久野君、裏の倉庫に型と道具があるから持っていっていいよ。あげるよ。うちは職人が死んで以来、もうできないから」 もちろん日本でもまだやっているところはあるけれど、すごく少なくなってきています。

 だけれどドイツでは、たとえばベッカー社のようにはるかにむずかしい押し口をいまだに作っています。むかし同じ口金をドイツから輸入して職人さんに頼んだらまるでできないと断られました。ちょっと気の滅入る話です。
ベッカー社の最近の製品です
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